何年も前のバージョンのCAD/CAMと、その上に作られた自動化(カスタマイズ)で回っている金型製作の現場は、少なくありません。それが止まるのは「ある日突然」ではなく、たいてい「予告された更新」で起きます。ここでは、問題の構造、今日できる防御策、そして移行の考え方を整理します。
Windowsは年に1回程度、大型の機能更新を配信します。数年前のバージョンで止まっているCAD/CAMは、この更新で起動しなくなったり、ライセンス認証や表示に不具合を起こしたりすることがあります。実際に、大型更新の直後に3D CAMが動作しなくなり、加工が止まった現場を弊社は見ています。
ここで見落とされがちなのが、「サポート契約があるから大丈夫」ではないことです。OSの更新に起因する停止は、ソフト側の更新(新しいバージョン)でしか解消できません。バージョンアップの提供を止めた「質問対応のみ」の保守やサポートでは、この種の問題は原理的に直せないのです。
金型製作の現場では、CAD/CAMの上にプレート加工の自動化やテンプレートといったカスタマイズが積み上がっていることが多くあります。長く運用されてきたものほど、仕様書がなく、権利の帰属も曖昧で、「作った人しか触れない」状態になりがちです。
その人が退職する、あるいはベンダーの体制変更で作った会社が触れなくなる——すると、延命も再構築もできなくなります。ソフトのメーカーは自社製品の保守はしますが、その上に載ったカスタマイズまでは面倒を見ません。
移行が怖い本当の理由は、形状データの変換ではありません。部品ごとに「どのプレートに、どんな加工をするか」という加工の指示(属性)が、旧システムの言葉で書かれていることです。この翻訳を人手でやれば、型の数だけ、数か月単位の作業になります。
だから「CADを入れ替える」だけでは移行にならない。旧環境の属性語彙を新環境の語彙へ翻訳する仕組みがあって初めて、20年分の資産を捨てずに運べます。
止めないための処置は、難しいものではありません。移行の準備が整うまでの時間を稼ぐ、という位置づけです。
旧CAD/CAMを稼働させているPCは、Windowsの機能更新(大型更新)を保留する設定にします(Windows Updateの一時停止、またはグループポリシーでのバージョン固定)。いま問題なく動いているPCは、そのバージョンのまま止めておくのが安全です。
メーカーからのメジャーバージョン更新も、カスタマイズが載っているPCには適用しません。カスタマイズは、載っているバージョンの上でしか動かないことが多いためです。
万一に備え、該当PCのディスク全体のバックアップ(システムイメージ)を今のうちに取ります。ライセンスファイル、ポスト、テンプレートの所在も併せて控えておきます。
これらは互換性に備える暫定策であり、安全性を保証するものではありません。セキュリティ更新を一律に停止せず、サポート期限、復元手順、ネットワーク分離の要否を確認して移行計画を立てます。処置の判断は「移行するかどうか」とは独立に、いま行っておくべきものです。
Fusionなどへの移行を、旧CADの操作を新CADで覚え直すこととして捉えると、現場の抵抗は大きく、得られるものも小さくなります。弊社が提案しているのは別の形です。
製品形状を渡し、いくつかの質問に答えるだけで、ストリップから型構造、部品表、調達部品の手配リスト、MC・ワイヤの加工データ、組み立て手順書までが揃う——そういう仕組みです。順送金型の設計と加工自動化の方法論は数十年前に完成し、以後本質的には変わっていません。だから、聞くべき質問はすでに決まっており、それをAIが正しい順序で尋ねることができます。
全自動にはしません。判断が要るところでは必ず人に聞く「半自動」です。旧環境の属性を新環境の語彙へ翻訳するのはAIの仕事、例外を判断するのは人の仕事、そして幾何・属性・パスを実際に生成するのは決定論的なコードの仕事——この役割分担を崩さないことが、精度と再現性と、現場の納得を同時に守ります。
2026年、AutodeskはFusionをAI(Anthropic Claude)から操作するための公式の仕組みを提供し始めました。CADの操作をAIが担い、判断を人が行う構成は、個社の工夫ではなく業界の標準的な方向になっています。弊社でもAIに自己検証させながら機能やポストの開発を行う体制に移行しています。
全データを一気に移す必要はありません。新規の型から新しい仕組みで作り始め、旧型は改修が入ったときに翻訳する——それで十分です。立ち上げは、弊社の技術者が現場に入る形(週2〜3日で約3週間)とその後のリモート支援で約1か月、旧環境との併走期間を含めて3か月程度が目安です。期間は現場の状況で変わりますので、個別にご相談ください。
バージョンアップの提供を含む保守なら、新しいバージョンで対応できる場合があります。質問対応のみでバージョンアップを止めた保守・サポートでは、OS更新に起因する互換性問題に対応できない場合があります。大型の機能更新は検証完了まで一時保留し、セキュリティ更新を継続できる保守・移行計画を立てます。
多くの場合できません。カスタマイズは載っているバージョンのAPIや構成に依存し、仕様書がなく作った人が触れない状態では再構築も困難です。延命は最小限の処置に留め、本格的な作り直しは次期環境で行うのが投資として合理的です。
ありません。新規の型から新しい仕組みで作り始め、旧型は改修が入ったときに翻訳する形で十分です。一括変換を前提にすると期間もコストも膨らみます。
任せません。AIが担うのは属性の翻訳・質問・例外の検出で、判断は人が行い、幾何や加工パスの生成は決定論的なコードが行います。全自動ではなく、判断が要るところで必ず人に聞く半自動の構成です。